・PER/PBR/配当利回りは「入口」。成長性・稼ぐ力・安全性の3観点で補完すると精度が上がる。
・同じPERでも“将来の利益成長”と“金利水準”で適正値は変わる。業種ごとの目安で見る。
・初心者は「最低投資金額」「分散」「配当性向」から。中上級者はROE/ROIC・FCF・営業利益率まで。
1. なぜ“1つの指標”に頼ってはいけないのか
割安に見える低PERが構造不況のサインだったり、高PERでも超成長で合理的だったり。
指標は「体温計」。複数を重ねて“病状”を判断するのが投資家の仕事です。
2. まず押さえる4大“入口”指標
PER(株価収益率)
- 式:株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)
- 解釈:利益の何倍で買われているか。将来の成長期待と金利で変動。
- 初心者の着眼:同業平均や過去レンジと比較。急低下は一過性の赤字/特損か構造悪化かを要確認。
PBR(株価純資産倍率)
- 式:株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)
- 解釈:解散価値に対する評価。ROEと相性が強い(一般にROEが高いほどPBRは上がりやすい)。
- 注意:PBR1倍割れ=即“割安”ではない。資産の質/不採算事業を確認。
最低投資金額
- 式:株価 × 売買単位(日本株は100株が多い)
- ポイント:一銘柄に資金を入れ過ぎない。単元未満株(S株等)で金額調整→分散を優先。
配当利回り
- 式:年間配当 ÷ 株価
- 落とし穴:高利回りは減配予備軍のことも。配当性向・FCFで“無理のない配当”か確認。
3. 入口の次に見る“実力”指標
| カテゴリ | 指標 | 見る理由 | ざっくり目安 |
|---|---|---|---|
| 稼ぐ力 | ROE(自己資本利益率) | 株主資本をどれだけ回すか | 安定して10%以上で合格点、15%超で優良 |
| 稼ぐ力 | ROIC(投下資本利益率) | 借入含む全資本の効率。資本政策の影響を除ける | 業種平均超えが◎/WACC超が条件 |
| キャッシュ | FCF(フリーCF) | 配当・自社株買いの原資 | 黒字が継続、景気後退でも枯れないか |
| 安定性 | 自己資本比率 | 財務クッション | 製造業で30–40%以上、IT軽資産は低くても可 |
| 安全性 | 有利子負債/EBITDA | 返済余力 | 3倍以内が目安 |
| 収益性 | 営業利益率 | 価格決定力・体質 | 景気敏感は低め、独占・SaaSは高め |
| 株主還元 | 配当性向 | 配当の“無理”を見抜く | 30–50%は持続的、100%近いと減配リスク |

初心者くん
PERが低い銘柄、すぐ“買い”ですか?

くろちゃん
同業比と今後のEPS成長を見てから。低PERは「人気がない理由」がある。来期予想や一過性損失を確認しよう。

初心者くん
高配当だけで選ぶのは?

くろちゃん
配当性向とFCFがセット。利回りだけで選ぶと“減配の落とし穴”にハマるよ。
4. 目的別・使い分け早見表(保存版)
| シーン | まず見る | 合わせて確認 | 避けたいNG |
|---|---|---|---|
| 割安株を探す | PER・PBR | ROE、業種平均、過去レンジ | 低PER=即買い |
| 配当で安定収入 | 配当利回り | 配当性向、FCF、減配履歴 | 高利回りだけで選ぶ |
| 成長株に賭ける | 売上/利益成長率 | ROIC、粗利率、LTV/CAC(SaaS) | 赤字継続を無視 |
| 守りを固める | 自己資本比率 | 純有利子負債、利払い負担 | 好況時の数字だけ見る |
| 長期ホールド | 営業利益率の安定 | FCF安定性、継続的な株主還元 | 単年の偶然に依存 |
5. 業種ごとの“ざっくり目安”を持とう
- ディフェンシブ(食品・医薬):PERは相対的に高め許容、利益率安定・FCF重視。
- 景気敏感(機械・自動車):PERは循環で上下。ピーク益のPER低下に注意。
- IT・SaaS:売上成長・粗利率・継続課金が核。PER単独評価は危険。
- 金融:PBRが低めでも普通。自己資本・不良債権をチェック。
6. フロー:10分クイックスクリーニング
- 最低投資金額で分散可能かを確認(単元未満株も検討)。
- PER/PBR/配当利回りを同業平均・過去レンジと対比。
- ROE/ROIC・営業利益率で“質”を判定。
- FCF・配当性向で還元の持続性。
- ニュース・決算補足で“なぜ今の数字か”を言語化。→買わない理由が消えたら候補へ。
【メモ】
「買いの理由」より“買わない理由の消し込み”の方が再現性が高い。
7. よくある勘違い
- 配当利回り=銀行利息の代替? → 株は価格変動リスク。減配・株価下落も織り込む。
- PBR1倍割れは必ず割安? → 資産の質と稼ぐ力の欠如で正当化されるケースあり。
- PERは低いほど良い? → 成長率と金利で適正が動く。“低い理由”を探す。
8. チェックリスト
⬜︎ 目的(成長/配当/値上がり/守り)を一言で言える
⬜︎ 最低投資金額が総資金の10–20%以内
⬜︎ PER/PBR/利回りを同業平均で相対評価
⬜︎ ROE 10%以上 or ROICがWACC超
⬜︎ FCF黒字かつ配当性向が50%以下
⬜︎ 直近決算の一過性要因を確認(特損・在庫調整等)
⬜︎ “買わない理由”を書き出しても反証できる
9. まとめ
入口の4指標で“方向”を掴み、ROE/ROIC・FCF・利益率で“質”を確かめる。
数字の裏側にある物語(業界構造・ビジネスモデル・経営の意思)まで踏み込めば、外れにくくなります。
免 責
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・通貨・商品の売買を推奨するものではありません。最終判断はご自身の責任にてお願いします。


